03.8.11(月)積丹半島

2018年3月12日サイクリング

■16/7/3新規追加
文:高森千穂


積丹半島の見事な夕焼け。心がふるえます……

 


この日は積丹半島を走ることに。岩内から神威岬に向かって、半島の西部を走ることにした。
札幌の朝は、曇りときどき小雨。まあ、大雨にはならないだろうと、7時に札幌市内を出発する中央バスに乗る。ここから2時間半かけて岩内へ向かう。観光バス型の大型バスだったので、BD-1はバスの「お腹」に入れてもらう。車内でBD-1をどう扱おうか思案していたところだったので一安心。
岩内には、かつては「岩内線」というローカル線が通っていたが、とっくの昔に廃止されている。時間はかかるけれど、手軽に行くには高速バス。けれどもこのバス、札幌市内を抜けるのに30分かかった。このあたり、バスは鉄道に比べてのろいんだよな……
小樽市内ではかなり強い雨に。非常に不安になる。
岩内のバスセンターについたときにも、まだぱらぱらと雨が降っていた。うーん、また雨の中のツーリングかとうんざりしていたら、すぐにやんで、その後は全く降らなかった。(どころか、夕方には見事な夕焼けが見られるほどのよい天気になった)


市内を抜けると積丹半島を周遊できる道は、国道229号しかない。農道などもいっさいない。きわめて厳しい地形なのだ。岩内町のとなり、泊村からはずっと海外沿いを走る。泊村には、道内唯一の原子力発電所がある。PR館「とまりん館」を横目に、最初のロングトンネル「堀株(ほりかっぷ)」トンネルを抜ける。(写真前方)約1.5キロ。このトンネルの裏に発電所があり、その見返りのトンネルなのか、立派な歩道のついた安全なトンネルだった。
原子力発電所の誘致された自治体というのはお金持ちで、ここ泊村も例外でなく、黒字の自治体だそうだ。立派なスケートリンクや公園が目に付いたが、他の地に比べればそれほど「交付金」を潤沢に使っているようには思えなかった。

写真前方は、泊村の景勝地「兜岩」に「ゴリラ岩」。奥の「ゴリラ岩」は、たしかにゴリラの横顔のように見える。
問題は、このゴリラ岩を貫通しているトンネル、「兜トンネル」。高さ3.5メートル、幅5.5メートルの、非常に狭いトンネルである。証明設備も乏しく、チカチカとオレンジ色に光るランプが、暗くじめじめとしたトンネルの壁面に、ぽつぽつとつけられているだけ。たった5.5メートルの幅なのに、対面通行。長さも700メートルぐらいある。白線はひかれているけれど、トンネルの端ぎりぎりにひかれているので、歩道なんて、それこそ、1センチだってない。しかも、ところどころ、排水溝がつけられている。
いったい、歩行者や自転車はどこを通ればいいのだろう。対向車線を轟音をたてて車が通り過ぎるし(トンネル内に響くその音は、おぞましいぐらいに大きい)、すぐ後ろにはトラックが走っている。排水溝の溝にタイヤをとられてひっくり返ったら、間違いなくその瞬間「昇天」するだろう。すぐ横をトラックが追い越していくかも、と思っただけで心臓がキュッと縮む。ドキドキしてしまう。このトンネルを通り過ぎるだけで、寿命が三日は縮んだ。
 けれども、積丹半島のトンネル(特に岩内側)は、あちこちのトンネルがずいぶんリニューアルされていた。


たとえばこの「茂岩トンネル」 元のトンネルは、おそらく「兜トンネル」と同じぐらい「恐怖の狭隘トンネル」だったと思われるが(写真左。通行止めになっている)、いまや1メートルの幅の防御柵のある歩道のついた、立派なトンネルになっている。ただし、長さは1キロ以上と長いけれど。昔のサイクリストはきっと、もっともっと「寿命の縮む思い」をしたのだろうと想像した。

←神恵内の街灯はすべてこのデザイン。
龍のピースがらぶり~。
泊村を過ぎると、次は神恵内(かもえない)村。街灯につけられた、神恵内村のマスコットらしき「竜」がかわい。右手でピースサインをしているのだ。
道の駅「オスコイ!神恵内」で一休みする。市街はもう少し手前にあって、小さなスーパーもあり、ここで休もうかとも思ったのだが、「道の駅」は往々にしてよく整備されていて、観光スポットにさえなっていることが多いので「オスコイ!」まで走った。
けれどもあてははずれた。「オスコイ!神恵内」は、トイレ設備は整っていたが飲食設備は今ひとつ。ドライブインのようなレストランがあるだけで、売店は閉鎖されていた。今年の異常気象が災いしてか、「開店休業」状態であった。「ここで魚を洗ったりさばいたりしないでください」という謎の張り紙のあるトイレに入っただけで、先へ急ぐことにする。


リニューアルトンネルでも、古いものは、歩道が整備されていなくて、単に白線の内側の幅が広いだけになっている。けれども新しいものには、安全な歩道があって安心して走ることができる。
これは工事中のトンネル。対面通行だったのが、新たにもう一つトンネルがつくられ、一方通行のトンネルになる予定だ。おそらく、歩道も作られるのであろう。交通整理をしていたトンネル作業員の言葉どおりの行動をとる。
「自転車を2台、安全地帯に退避させます」レシーバーで外と連絡をとる作業員。おかげで、全然怖い思いをせずに、長いトンネルを抜けることができた。もし工事をしていなかったら、また「兜トンネル」のような怖さを味わわなくてはならないところだった。
ちなみに、唯一の救いは「交通量が圧倒的に少ないこと」 歩道の無いトンネルでも、車道の幅が広いところでは、あまりビクビクせずに車道を走ることが出来る。対向車線にも車がいなくて、後ろから追い抜いていく車もないとなると、それこそ「天下の大トンネルを自転車を並べて堂々と走る」状態になり、非常に不思議な感じ。自転車をこぐ音だけが、わんわんとトンネルにひびく。
けれども、たった一台でも対向車線に車が走っていると、もうもう大違い。たった一台の車がトンネル全体に響き渡らせるすさまじい大音響は、決して忘れることができない。

「西(さい)の河原」なんていう、恐ろしげなトンネルも通過する。もちろん音読みは「さいのかわら」。本当に「賽の河原」をイメージしていたりするから恐ろしい。
このトンネル、積丹半島を周遊する道路で、最後に作られたトンネルだそうだ。完成はたった7年前の1996年。つまり、西の河原トンネルができるまでは、積丹半島は周遊はできず、岩内からの方が近い神威岬に行くにも、余市側から往復するしかなかったのだ。
走ってみて納得。
巨大な岩盤が壁のように目の前に立ちはだかっている。岩盤はそのまま海にせりだし、断崖絶壁となっている。これでは、土木工事技術が進歩する以前の時代では、とてもではないが道をつけることもできないし、トンネルを掘ることもできなかっただろう。
まさしくここは秘境だったのだ。集落もないようだし、夏の今は走っている路線バス(西の河原より先へ行くのは一日2本だけだけど)も、冬季には走らない。
とにかくこの岩盤には圧倒された。わざわざ車から降りて、写真を撮っている人たちもいたぐらいなのだから。
さて、いよいよ、本日のハイライト「神威岬」が近づいてくる。あ、あそこが岬ね」と、指差せるほどに接近。ゆるやかな坂道をのぼっていく。
かつては秘境(寂れた観光地、とも言ったらしい)だった神威岬に、自分の足でたどりつこうとしているのだ!! 気分はいやが上にも高まる。

この写真の突端が神威岬。

国道229号をそれて、神威岬へ抜ける道は、日中のみ開放。しかも急勾配。9%勾配である。さすがのバイクも自動車も、思い切りエンジンを吹かせてすぐ横を通っていく。ぜいぜいいいながらのぼり、途中でちょっと休憩。


なんとかのぼりついて、神威岬の駐車場へ到着。
駐車場は5分の入り、というところ。大型バス用の駐車場は閑散としていたので、観光バスなどはあまりきていないようだ。
この駐車場には北キツネが出没していた。最近のキツネは頭がよくて、観光客におねだりしてえさをかせいでいるのだ。その姿はまるでペット犬。スーパーやコンビニのビニール袋(食べ物が入っているとわかっている)を持ってる人には寄っていき、食べ物をくれそうな車にはまとわりつき、あろうことか、車のドアに前足をかけたりしている! もはやこうなると「野生動物」ではない。
かわいいので、ついつい何かをあげたくなってしまうのだけれど、キツネの生態を崩したくなければ、ほっておくにかぎるのだろう。ところでこのキツネたち、どこに住んでいるのだろう。「駐車場に住んでいます」と言わんばかりだったけれど……


岬の先、海中から顔を出す神威岩
神威岬の突端は遊歩道になっており、徒歩のみ。強風の日は歩けないというが、この日は曇天であるだけで風は強くない。雨も降らず、遊歩道は開放されていてラッキー。
ここはほんとうにほんとうにすばらしかった。海の青に、岩の荒々しさに、たくましく育つ原生植物の緑が、自然美を描き出していた。ああ、はるばる来てよかったと実感。しかも、自力で、自転車で来たんだもんね(岩内まではバスだったけど)、と誇らしい気分にさえなった。今回の北海道旅行で、一番の景勝地であった。


さて、神威岬を歩き終わった時点で、すでに2時近かった。朝7時のバスに乗って、車中でサンドイッチやおにぎりの朝食を食べたきり。お茶とカロリーメイトでエネルギー補給はしてきたけれど、そろそろ限界である。途中、川白の集落(西の河原トンネルが出来る前は、どんづまりの集落だったのでは?)と道の駅「オスコイ!神恵内」に食堂はあったけれど食べなかったのは「積丹半島名物・生ウニ丼」を食べたかったから。6月下旬から9月のウニの解禁時期には、取れたての生ウニが食べられるとのこと、楽しみにしていたのだ。神威岬の7,8キロ先の集落にウニ丼屋が軒を並べると聞いていたが、そこまで行くにはあと30分は走らなくてはならない。それでは遅すぎるので、岬の下のレストランで生ウニ丼を食べる。
いやもう、めちゃめちゃおいしかったです(T_T) 私はウニが大好きなんです。ウチの方のスーパーで買うよりも安い値段で、朝獲りの薬につけていない生ウニ丼定食を食べることができました。赤ウニだったら、もう少し高級だったんですけど。
生ウニを食べ終わって2時半。この後どうするか考えた結果、「もう、今日は充分堪能したからそろそろ終わりにしよう」といきなり軟弱路線へ流れることに。
当初の予定では積丹岬まで行って「シャコタンブブルー」の海を眺める予定であったが、岬に行くにはかなりの起伏があるので中止、岬手前の日帰り温泉「岬の湯しゃこたん」で温泉に入ることにする(写真右)。
「岬の湯しゃこたん」のまん前に路線バスのバス停があり、ここから一時間四十分ほどで小樽に出ることが出来る。バスが来るまで温泉に入ってビールを飲もう、ということになった。
「岬の湯しゃこたん」は、よくある「日帰り温泉」形式なのだけれど、近所の人はもちろん、私のような観光客や、近くのYHや民宿に泊まっている人たちも利用する。というわけで大盛況。理由は簡単。きれいで広い浴室。神威岬と大海原を眺めることのできる露天風呂。地元のおばちゃんたちでさえ、うっとり海を眺めてしまうような素敵な広い露天風呂があるのだ。この温泉、地元の雇用活性化にも一役買っており、拡張工事もされていた。万民を幸せにする温泉なんですね。
17時半前にバスに乗車。


徐々に晴れてきていた空は、夕暮れが近づくにつれてどんどん雲が切れ、バスの車窓から夕焼けが見えるようなった。ああ、今頃、「湯の岬しゃこたん」の露天風呂に入っている人たちは、お湯につかりながらこんな夕焼けを見ているんだろうな、などと思う。
積丹半島から美国にかけては、山の中を走るので(なにせ、道の真ん中で、北キツネが寝そべっていたりしたのだから。バスが近づくと、のろのろと道路の隅に移動していったけど)、ああ、ここを自転車で走るのはしんどかっただろうなあなどと思ったが、美国から先は、割と穏やかな海岸線が続き集落も続く。積丹半島の東側、つまり余市側は、古くから道が開通しており、町ができていたのだ。ただし、そのため「老朽化した恐怖の狭隘トンネル」は、岩内側に比べてずっと多かったけれど。
悲惨なトンネル事故のあった「豊浜トンネル」の入り口横には「防災記念公園」が作られ、旧豊浜トンネルはもちろん、続くいくつかのトンネルも廃止され、新豊浜トンネルは、立派な歩道のついた全長2キロにもわたる長大トンネルになっていた。


見事な夕焼けを眺めながら、19時過ぎ、小樽駅前に到着。
小樽からはJRで札幌にもどることにする。駅構内を飾るランプ(小樽一の土産物屋ではないかと思われる北一硝子店作成のものだそうだ)が印象的な、石造りの立派な駅である。
この日は、20時半頃ホテルに着き、近くのラーメン屋で食事を済ませた。明日はもう、札幌をたたねばならない。台風のおかげで、ずいぶん短く感じられた札幌滞在だった。