11/08/17 北海道ツーリング4日目 三毛別羆事件復元現場
8/17(水) 曇りのち晴れ 羽幌-古丹別-三毛別羆事件跡地-苫前 79km ルート図
(文:高森千穂)
朝、ホテルの部屋には朝日がさしていた。待望の太陽だ!と喜んだもの束の間、朝風呂の露天風呂で、またも雨が降ってきた。天気予報は「雨のち晴れ」だが、今日はどうなのだろう。
今日の予定は「羆嵐」の現場へ行くことだ。今回の旅行の目的の一つだ。吉村昭氏の著書「羆嵐」を以前に読んでいて、日本史上最悪の獣害の現場を見てみたかったのだ。「三毛別羆事件」として、世間的にもかなり有名だし、苫前町のカントリーサインが熊なのも、この事件に由来する。
早朝に降っていた雨はすぐにあがったが、いまひとつすっきりしない曇り空の下、まずは古丹別の集落へ向かう。かつては鉄道もとおっていた苫前町の市街(苫前町は、町役場のある海辺の苫前集落と、古丹別の二つが大きな集落である)で、飲食店も数軒あるし、農協もセイコーマートもある。
羽幌から古丹別までは15キロ程度。途中、標高100メートル弱の小さな峠を越えるが、峠に建てられた石碑には、ただ「峠」とだけ書かれていた。
古丹別のセイコーマートで昼食を調達し、いざ現場へ。ここから現場「三毛別(現・三渓)」まで18キロ、「ベアロード」と名付けられているが、途中には何もない。ただし、「羆嵐」現場は、苫前町にとっては一大観光地で、「ベアロード」は大々的に宣伝されている。商店街の店には必ず「ベアロード」のペイントがされており、このペイントは、現場すぐの農家までずっと続いている。
ベアロードは行き止まりの道で、三毛別羆事件復元現場で終わりである。その先は小平に通じる道道126号と接続する計画で、ツーリングマップルには山道が記載されているが、まだ通じてなく「小平には行けません」と表示されている。
現場以外、農家が少々あるだけの道なので、ここを通るバイクや車は、ほぼ100%、復元現場を見に行くと思ってよい。なんとなく親近感があり、バイクの人には手を振り返してしまう。ちなみに往復36キロ、出会った車・バイクは10台程度だった。
羆が出るような山奥への通じる道とのこと、どんなにさびしいところかと思っていたが、意外とのどかな田園地帯で、田んぼが広がっていた。以前に「苫前に米?」と思っていたが、米の北限よりは南に位置する町で、稲作がとてもさかんであった。(後に読んだ本によると、明治時代後期からすでに稲作が始まっており、減反政策前は、もっと田んぼが多かったそうだ)米以外はメロン、かぼちゃが多く植えられており、農作物集積所には、山のようにかぼちゃが積まれていた。海辺の道を走っているだけでは気付かなかったが、苫前は、実は豊かな穀倉地だったのだ。
ベアロードには数キロおきに「ようこそ羆嵐へ」「現場まであと何キロ」という看板があるので、あまり距離は感じない。久々の太陽の元、うきうきと調子よく走る。「射止橋」など、羆事件にちなんだ名称の橋もあった。
現場手前数キロで集落は途切れるが、川沿いにところどころ空き地が見られ、かつての入植地だったと思われる。三毛別(六線沢村)は、羆事件のあと、徐々に離農していき、今は無人の地となっている。
現場手前200メートルで舗装は途切れ、最後はダート。「現場」標識の熊の絵が怖い。昨日までの雨でじめじめしていたが、ようやく行きたかった地へたどりつけた。
「こんなところでよく冬を越せたな」と思うような小屋と、巨大な羆の模型が置かれており、それなりの臨場感がある。ただし、予算不足だったのか、羆は上半身のみで、裏側から覗くと興ざめであった。
小屋の様子は、開拓当初は本当に厳しい生活だったのだと感じさせる。羆事件の概要の立て札があり、そのそばには「羆が目撃されています。餌付けしないように」と書かれていた。羆が出たら、と思うと怖い場所で、餌付けする人などまずいないと思うが。近くの木の枝に「羆の爪痕」が残されていたが、これは本当だろうか?
しばらく現場周辺をあちこち眺め、「ようやく行きたかった場所へ行けた」満足感にひたりながら、現場を後にする。
現場で昼食とするには時間的に早すぎたので、途中の三渓小学校跡地で、おにぎりを食べる。三渓小学校は平成2年閉校で、今は体育館と教室の一部を残すのみ。体育館は木造の古い建物で、20年前まで現役だったとは思えない。今はメロンやトマトの集積場となっている。
三渓小学校の前には三渓神社があり、羆事件の犠牲者が祀られている。この地は、羆を恐れて、六線沢村から村人が避難してきた場所なのだ。今もお供え物が置かれており、この地の人たちには大切されているようだ。
その後、緩やかな下り坂にすいすいと走り、13時前には古丹別に戻ってしまった。セイコーマートでおやつを食べたが、今日の宿は道の駅「風W(ふわっと)苫前」なので、このままではチェックイン前についてしまう。ということで、上の平グリーンヒルウィンドファームへ寄ることにする。
ウィンドファームの北側の畑からウィンドファームをめざす。3年前に訪れたときとは、また別トルートだ。すぐそばまで畑が広がっている。相変わらず、人の心をつかむ絶景だ。
この後、苫前町郷土資料館へ行く。羆事件現場でこの資料館の存在を知り、もっと三毛別事件を詳しく知るために、訪れることにした。郷土資料館は国道232号近くにあるが、国道はおととい泣きながら走った道なので、農道を選んで行く。
郷土資料館は、全体の1/4は羆事件に関する展示だが、苫前町の歴史など、なかなか見応えがあった。資料館受付のおばちゃんが「明日、『たけしのアンビリーバボー』で、羆事件の番組をやるよ、この前、ここにも取材に来て、そこらへんの写真を撮っていったから」と、興奮した様子で教えてくれたので、テレビを見ることを約束した。
まだ時間に余裕があるので、海岸線(国道や集落は高台にある)に降りる。ここには小さな集落があり、海水浴場やキャンプ場も整備されていた。
穏やかな気持ちのまま、苫前道の駅に併設されたホテル「風Wとままえ」に到着。天候が異なるだけで、おとといとはずいぶんな違いである。
温泉に入り、夕焼けを見るために、夕食時刻を19時に設定し、しばらく部屋で夕日をながめる。昨晩は見ることのできなかった手売・焼尻の島影や、海に落ちていく夕日をゆっくりと楽しむことができた。その気になってみると「ぺたんぺたん」の手売・焼尻は、明らかに手売島の方が高く険しいことがわかった。